教育

フリン効果はもう発揮されずに若者の成長が止まるかもしれない

「最近の若者は――」とため息をつく大人たちは少なくありません。

人との接し方や政治への無関心、日本の将来に対する不安など、自分たちと比べると心配になる点が多いと感じるのかもしれません。

しかし、それは本当に正しい認識なのでしょうか?

実際、過去世代の若者と比べて、現代の若者の知識や能力が向上していることを示すデータが豊富に存在しています。

過去の世代が築いた知恵を基盤に、次の世代がその成果をさらに積み重ねていく――その結果、私たちが享受している現代の便利で発展した社会が形成されてきました。

ただし、ここで重要な問いがあります。

「この成長の流れが今後も自然に続くのか」ということです。

近年、この好循環に陰りが見え始めており、次世代が何もせずとも勝手に成長し続けるという保証はなくなりつつあります。

では、私たちが今担うべき役割とは何でしょうか?

それは、「自ら学び、次世代へ引き継ぐ教育者」として、変化する社会に適応しながら学び続けることです。

この記事では、「若者の成長」という前提にある教育や技術の進化、そして社会環境の変化について解説します。

さらに、持続的な社会の発展を支えるために、あなたが今できることについても触れていきます。

歴史的に若者に対する不満は繰り返されている

「最近の若者は――」と嘆く声は、実は何千年も前から繰り返されています。

古代エジプトのピラミッドには、現代でもよく耳にするような「若者が礼儀を知らない」といった落書きが残されています。

時代を超えてこの手の不満は健在といったところでしょうか。

しかし、若者に対するこのような不満は、実は人類が進化してきた証でもあるのかもしれません。

ちなみに、この「年配者が若者世代へ抱く心理」については、以下の記事で紹介していますので、気になる方はチェックしてみてくださいね。

「心理学テーマ6:年配者が若者世代へ抱く心理」

若者が今の大人より将来的に頭が良くなる理由

「世代を重ねるごとに頭が良くなる」という現象には、いくつかの科学的な見解があります。

その代表的なものが「フリン効果」と呼ばれる現象です。

フリン効果について

人類の知能や認知能力が時間と共に向上している現象のことを「フリン効果」と呼ばれています。

ニュージーランドの政治学者ジェームズ・フリンが発見し、名前の由来となっています。

これによると、世界各国で「過去100年ほどの間に、IQテストのスコアが定期的に上昇している」というデータが示されています。

また、現代の若者が20世紀初頭の人々と同じIQテストを受けた場合、約10~20ポイントも高いスコアを取るという結果が出ています。

この現象は、発展途上国から先進国まで幅広い範囲で確認されており、特に抽象的思考能力、論理的推論、問題解決能力といった重要スキルの向上が見られました。

若者が今の大人より将来的に頭が良くなる4つの要素

若者が今の大人より将来的に頭が良くなる理由には、4つの重要な要素があります。

なぜ「若者が今の大人より将来的に頭が良くなる」のでしょうか?

この要素について紐解いていきましょう。

1. 教育環境の改善

理由として最も大きいのは、「教育制度の進化」です。

20世紀以降、世界中の教育制度は大きく進化しながら普及しました。

特に、先進国では基礎教育が義務化され、高等教育や大学教育についても多くの人が受けられるようになりました。

また、蓄積された科学的知識を応用することで「教育の質」も向上しています。

教育の質が向上した例
  • 教育年数の長さ

過去の若者と比べて、現代の若者は長期間にわたり教育を受けています。

その分、より多くの知識とスキルを身につける機会が増えました。

  • カリキュラムの変化

「論理的思考や問題解決能力に重点を置くカリキュラムの導入」により、抽象的な課題に取り組む能力が向上しています。

例えば、国際学力調査(PISAやTIMSSなど)でよく名前が挙がるシンガポールでは、「Concrete-Pictorial-Abstract(CPA)アプローチ」という指導法が使われています。

Concrete-Pictorial-Abstract(CPA)アプローチとは、シンガポールで広く用いられている数学教育法です。

この方法は、段階を踏んで数学の概念を理解させることを目的としています。

  1. Concrete(具体的なもの):最初に、実際の物体や道具を使って数学の概念を学びます。例えば、リンゴやブロックを使って足し算や引き算を視覚的に体験します。
  2. Pictorial(図的なもの):次に、具体物から少し抽象化して、図やイラストを使って学習します。例えば、ブロックの代わりに図や棒グラフなどを用いて、視覚的に数量の関係を理解させます。
  3. Abstract(抽象的なもの):最終段階では、具体的な物や図から離れて、数式や記号を使って数学的な考え方を整理し、抽象的に思考できるようになります。

このカリキュラムを通じて、概念の背後にある理論や応用方法を深く理解できるため、シンガポールの学生は国際的な学力調査で高い成績を収められています。

 

  • 近代技術と教育の融合

日本も2020年から小学校で「プログラミング教育」が必修科目として導入され、中学校や高校でもプログラミングやデータ活用に関する授業が多く導入されています。

この動きは従来の教科の枠を超えて、近代技術を活用した学習が教育に取り入れることを促しています。

このような技術の進展と教育の融合が、若者たちの学び方を変え、これからの社会に対応できる能力を育くんでいます。

2. 社会環境の改善

栄養状態や健康、家庭環境、経済状況などのような、社会環境が改善されたことも要因の一つです。

以下の点で、現代の若者たちは過去の世代に比べて有利な状況にあります。

 

  • 栄養をバランスよく取れるようになった

過去の若者に比べて、現代の若者たちはバランスの取れた栄養を摂取しやすい環境です。

特に幼少期の栄養状態は、脳の発達に大きな影響を与えるため、知能の発達にも直結します。

  • 医療の進歩

医療の進歩も、現代の若者たちがより安定した環境で学べる要因となっています。

予防接種や高度な医療技術の普及により、幼少期に深刻な病気にかかるリスクが大幅に減少し、健康的な状態で長期間にわたって教育を受けられるようになりました。

  • 社会全体の安定

社会全体が安定していることも重要な要素です。

過去の戦争や経済的混乱の時代とは異なり、現代は比較的平和で経済的にも安定した時代を迎えています。

このような社会の安定性が、若者たちが安心して教育に集中できる環境を作り出しているのです。

この安定した環境により、若者たちは知識やスキルを積み上げやすくなり、未来に向けた学びに対するモチベーションを維持しやすくなっています。

教育の質の向上と安定した社会が相互に作用し、世代を追うごとに知能や能力の向上が促されていると言えますね。

3. 科学技術と情報へのアクセス

過去の若者では想像もできなかったほどの情報を、インターネットやデジタル技術の発展により、現代の若者は手軽に手に入れながら学ぶことができるようになりました。

近年では、人工知能(AI)やビッグデータといった先端技術を教育に応用させることで、生徒一人ひとりに合わせた個別指導や学習の最適化につなげています。

結果として、若者たちは時代が進むにつれてより効果的に学べる環境を手にできていると言えます。

ただし、この膨大な情報の中で、効果的に学ぶには情報を適切に取捨選択し、批判的に考える力が必要です。

情報が簡単に手に入るからこそ、表面的な知識に終始せず、深く掘り下げて考える力が重要になります。

教育においても、単に知識を与えるだけでなく、どう活用し、どう判断するかを教えることが一層求められているのです。

 

4. 教育における社会の相乗効果が起きている

人類の知能向上は、社会全体の進化につながります。

個人の知能向上が社会全体に様々な形で還元され、それが「新たな知識や技術を生む」という好循環が続いています。

数学や科学の分野で例えるなら、新しい発見や理論が学校教育の中で教えられることで若者の頭を良くすることを助けています。

若者が、新しい発見や理論を生むまでの時間を短縮できる分、別の学びに投資ができます。

歴史的に見ても、こうした「集団知能」の向上が、人類全体の進化を加速させてきたことが確認されています。

これから先の時代にフリン効果は発揮されるのか

フリン効果が指摘されるように、世代を追うごとにIQや知識は向上してはいるものの、この流れがこれからも続くとは限りません。

近年「フリン効果が鈍化している」という研究結果も出ており、この効果が永遠に続くものではないという懸念が高まっています。

これは、現状維持の状態で若者の知識や能力が向上し続けるわけではないことを示しており、あなたは「フリン効果が発揮されない時代が来ること」を前提とした対処が必要です。

というのも、フリン効果のがいう知能の上昇に直接影響を与えているのは、「教育や社会全般をとりまく環境の変化」に対する依存度が大きいからです。

仮に、教育の質が維持されなければ、この傾向は逆転する可能性もあるのです。

文字通り、「最近の若者は――」という状態が出来上がってしまいます。

 

学ぶ時間が大きく関係する

フリン効果の鈍化は、学ぶ時間の減少とも関連している可能性があります。

その理由の筆頭として、かつての教育改革で注目を集めて大いに評価されていた「フィンランド教育の現状」が挙げられます。

フィンランド教育は、2000年のOECDによる国際学力調査がきっかけで世界的に注目されました。

この調査でフィンランドは、「勉強時間を減らす」という逆説的な方法を取りながらも学力向上を達成し、日本をはじめとする多くの国々で教育改革のモデルとされました。

ところが、フィンランドでは2006年をピークに徐々に学力低下が起き始め、2018年以降は急激な学力低下が起こっています。

学力低下につながった原因は、子供たちに自主性を求める「生徒主導型学習」だと言われています。

この方法は「学習意欲が低い生徒には効果がなく、学力低下を招くことが多い」という結果が研究により出されています。

特に低学年では、学力格差が広がる原因にもなっていますが、これは自主的に考える能力の成熟度に関係があります。

低学年の段階では、抽象的思考や自主学習に必要な自己管理能力がまだ十分に発達していないため、自主性を期待しすぎると学習の遅れや興味を失う原因になります。

ちなみに、この教育方針は90年代に打ち出されたものであり、フィンランドが2000年代に高い学力を達成したのは、1980年代までの中央集権型で集団主義的な教育法が影響していた可能性が高いとされています。

日本においても、「ゆとり教育」は2002年に導入されましたが、批判を受けて見直しが進められました。

2011年度には、小学校と中学校で学習指導要領が改訂され、事実上「ゆとり教育」は廃止されました。

「教育方針の失敗」も絡んでいる例ではありますが、本質的には「結果的に学習時間が減ってしまったこと」が原因であることは押さえておく必要があります。

社会人になって、あなたは学んでいますか?

最近の若い人は――というのは、若者の成長を放置する選択をしていることと同じです。

学び続ける環境を整えることなく、次世代に期待するのは無責任とも言えるでしょう。

実際にフリン効果が鈍化しているということは、社会全体の成長が鈍化していることを意味し、間接的にあなた自身にも影響を与えることになります。

技術革新が遅れ、グローバル競争での劣位に立つことになるかもしれません。

また、経済成長が停滞することで、生活水準の向上が期待できなくなるなど、未来において多くの人々が影響を受ける可能性があります。

あなたの成長は、あなた自身のためだけでなく、社会全体の未来を支える重要な役割を担っています。

私たちが生涯、若い人たちの教師であり続ける必要があるのです。

今あなたができる3つのこと

繰り返しにはなりますが、あなたの成長は社会全体の未来を支えるために欠かせません。

ボランティア・寄付などの慈善活動が社会貢献だと思うかもしれませんが、あなたの取り組みや成長も社会貢献であることを忘れないようにしましょう。

若い人は、周りの大人の背中を見ながら成長しているからです。

そのために今からでも取り組めることを3つほど紹介します。

1.自己研鑽を続ける

どの年代においても、自分自身のスキルを磨き続けることが大切です。

新しい技術や知識を常に学び続ける姿勢を持つことで、次世代の先生としての役割を担いながら社会の成長に貢献できます。

2.教育環境の改善に関わる

社会全体で教育環境を改善できる取り組みに積極的に参加してみましょう。

例えば、親や教師が子供たちに質の高い教育を提供できるよう、支援制度を整えることが重要です。

また、教育が受けられない子供への支援のために、寄付をするというのも貢献になるでしょう。

3.共に学ぶ文化を育てる

若者と一緒に学ぶ姿勢を持つことで、世代を超えた成長が可能になります。

学び合う文化を職場やコミュニティに根付かせ、互いに知識を共有することが、長期的な成長と繁栄に繋がります。

世代を超えた交流というのも、これからのテーマとなるでしょう。

まとめ

この記事では、「若者が今の大人よりも将来的に賢くなる理由」について、歴史的な背景や科学的データをもとに解説しました。

次の世代の成長を支えるために、私たち大人が果たすべき役割についても考えてきました。

以下に、記事で取り上げた主要なポイントをまとめます。

まとめ
  • 教育環境の改善、社会の安定、技術と情報へのアクセス、そして社会全体の相乗効果といった様々な要因で現代の若者が実際には過去の世代よりも知識や能力が向上している
  • 「フリン効果」が年々鈍化し始めており、若者の成長が止まることで、社会全体に悪影響を及ぼす可能性がある。各世代が自ら学び、次世代に教える役割を果たす必要がある
  • 「自己研鑽」「教育環境の改善への参加」「若者とともに学びあう」など、社会全体に相乗効果を与えるために自分ができることから始めてみる

積み立てNISAや国民年金にお金をつぎ込むのと同じで、若者への投資は将来の私たちへの投資とも言えます。

若者たちが世代を超えて賢くなっているのは、先人たちが次世代を育てるために教育などの環境づくりに注力した結果ではないでしょうか?

学び続けることは、結果的に若者たちの未来を支え、社会全体の発展にもつながります。

「あなたの行動が社会全体の未来を作っている」という意識で、自分が今やれることについて考えてみましょう。

それでは、これからの日々がより豊かで成長に満ちたものになることを願っています。

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